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ニューラル機械翻訳は使えるのか?
この問に対する結論ですが、「使えるのかどうかは翻訳者本人が判断するものであり一般論はない」と思っています。なぜなら、ニューラル機械翻訳(NMT)の訳文の用途や分野、扱い方により、評価が異なるからです。私は半年前くらいからGreenTのモニターユーザーさんと対話を続けてきました。このやりとりから、上記のような結論に達しました。
翻訳業界にいると「ニューラル機械翻訳は品質が悪くて使えない」ということを聞くことがありますが、実際には一般化して単純に言い切れるものではないと思います。なぜなら、この評価において前提条件がはっきりしていないからです。たとえば、ニューラル機械翻訳の有効性を評価するための条件として、使用する翻訳エンジンや訳文の利用目的、言語方向、分野、納期、原文の分量、翻訳単価などが挙げられます。これを定義した上で、翻訳者本人にとってニューラル機械翻訳が使えるか使えないかを検討する方が本質的な答えに近づくと思います。
訳文の品質を評価するときには、必ずそのクライアントの要求する翻訳品質が関係してきます。同じ分野であってもクライアント毎に異なる判断基準を持っているのですから、当然OKとなる訳文のレベルは様々なはずです。これを考えても、画一的に答えが出るものではないと思います。
このような背景で私が到達した結論は上記のような「使えるのかどうかは翻訳者本人が判断するものであり一般論はない」です。そして、「翻訳者本人が使いたいのであればニューラル機械翻訳を使えばいいし、使いたくないのであれば第三者が使用することを強制しない方がいい」とも思っています。
GreenTのモニターユーザーさんの声からわかったこと
私は汎用ニューラル機械翻訳エンジン(分野に特化していない翻訳エンジン)を高い品質が求められる専門性の高い翻訳に用いるのは、けっこう大変だと思っています。少なくとも用語集を適用できるものでないと、出力された訳文の編集が大変になることが多いと思います。
用語の適用が可能な翻訳エンジンを用い、用語集適用や数字のQAチェックが自動的にできる翻訳支援ツール(たとえば、GreenT)を用いると、ニューラル機械翻訳の弱点(用語の不統一や数字の誤訳など)がある程度は補われれます。そのため、ニューラル機械翻訳の誤訳や修正箇所が少なくなります(具体例はこちらの記事をご覧ください)。このGreenTを実際に使ってみた人に今後の翻訳業務で利用したいのかどうか、というアンケートをとったところもう少し具体的な視点が見えてきました。
モニターユーザーさんと対話をしてみると、検討で重視してる点は「ニューラル機械翻訳の出力の品質」以外のものも多いことがわかりました。GreenTを積極的に活用しようと思っている方々は、「GreenTでニューラル機械翻訳を使ってある程度翻訳ができることがわかったが、」という前置きをした上で、おおよそ以下のようなことを考慮されているようです。
- 既存の翻訳プロセスへの組み込みやすさ(現在使っている翻訳支援ツールにGreenTを組み込めたら使いたい)
- 導入コストの納得感(普段の仕事の一部の分野でのみGreenTを活用できるから、対象となる文書の一部分だけでGreenTを活用できるから)
私自身、翻訳メモリツールの効果は体験しており、すべて機械翻訳に頼るよりも、自分の既訳文を再利用したほうが速い場合があることは知っています。なので、繰り返し表現の多い案件では、GreenT単独で使うよりも他のツールとの併用が効果的であることはその通りだと思います。
「自分の翻訳メモリを使った方がGreenTを使うよりも速い」という方ももちろんいらっしゃいまして、そのような方にはGreenTはおすすめしていません。このような方には、翻訳メモリを活用できない場合にだけ、GreenTでお役に立てるのかも知れませんが。
あと、「GreenTを使うと翻訳作業のおもしろみがなくなる」のような声も何名かの翻訳者から聞こえてきました。翻訳の面白さも翻訳スピードと同様に重要な視点だと思います。
上記はGreenTという特定のツールを使った場合のニューラル機械翻訳の活用についての検証です。今後、ニューラル機械翻訳を使いやすくするためのツールは他にも出てくると思います。現在、分野に特化したエンジンが開発されており、そのエンジンの訳文品質が徐々に向上していくと思われます。なので、今後は、エンジンの出力品質面よりはツールとの親和性や導入コストの納得感、既存の翻訳のプロセスへの組み込み方などに導入時の評価の重点が置かれていくようになると思います。
このように条件や人によって評価が異なるのですが、これが現時点でのニューラル機械翻訳の力だと思っています。ニューラル機械翻訳は万能ツールではないので、案件に応じて使い分けていくことになると思います。相性があえば有効なツールです。
導入の判断基準についてはまた別の記事「ニューラル機械翻訳利用の判断基準」で紹介したいと思います。