【機械翻訳】「写真はイメージです」をどう訳すのか?

翻訳者でもどう訳すのかちょっと迷うこのよくあるフレーズ「写真はイメージです」。商品のパッケージでよく見る定番の言い回しです。今の機械翻訳エンジンはどう訳すのでしょうか。

「DeepL翻訳」、「Google翻訳」、「みんなの自動翻訳」の出力を比較してみました。

結論

DeepL翻訳は「写真はイメージです」を慣例に則した表現に近い訳文で出力しました。Google翻訳とみんなの自動翻訳の出力は誤訳でした。DeepL翻訳が出力した表現は、文法的な解釈や原文中の語句だけでは作り出せません。試しに逆方向の英文和訳をしてみたときに、後述するようにDeepL翻訳だけ出力に特徴がありました。おそらく、DeepL翻訳では翻訳エンジンの学習データ(コーパス)でこの手の訳文を上手に学習していたと考えてもよさそうです。

今回の例のように、DeepL翻訳は慣例に則した表現で訳文を出力する能力が高いと思われますが、学習データに影響されて「勝手に意味を解釈して訳文を作成している」ともとらえられます。「勝手な解釈(=誤訳)か否か」の判断は、英語を理解している人はできますが、そうでない場合には難しいと思います。いずれにしても機械翻訳には誤訳がつきものであり、両言語を理解している人が誤訳の検出と修正をする必要があると思います。

翻訳エンジン別の出力の比較(日英翻訳)

原文 DeepL翻訳 Google翻訳 みんなの自動翻訳
写真はイメージです。 Photo is for illustration only. The photograph is an image. The picture is an image.

いずれも2020年10月の出力結果です。

DeepL翻訳だけが意味に近い訳文になっており、原文の言葉を訳しただけの文ではありません。この英文「Photo is for illustration only.」をGoogle検索してみるとかなり使われているようです。よく見ると、英語ネイティブ以外の国のサイトで使われているようにも思えます。

Google翻訳とみんなの自動翻訳はともに「写真は画像です。」という訳文になっており、原文の本来の意味を伝えらていません。

「写真はイメージです。」の訳し方については、ネット上のフォーラム(掲示板サイト)でも話題になっており、いくつかの訳が見つかります。

ProZ.comというフリーランスの翻訳者向けサイトの掲示板には、「The photo is for illustrative purposes only.」という訳文が掲載されています。それ以外にも意味を説明する「Product images may differ from actual product appearances.」のような訳文も載っています。

DMM英会話のサイトにも同様の掲示板がありました。

翻訳エンジン別の出力の比較(英日翻訳)その1

DeepL翻訳が出力した英文を和訳してみたらどうなるのでしょうか。

原文 DeepL翻訳 Google翻訳 みんなの自動翻訳
Photo is for illustration only. 写真はイラストのみです。 写真は説明のみを目的としています。 写真は説明のためのものです。

今度はDeepL翻訳の訳文が不自然になっており、何を意図したのかわからない日本語になっています。これに対して、Google翻訳とみんなの自動翻訳の訳文は意味が通じます。

翻訳エンジン別の出力の比較(英日翻訳)その2

ProZ.comに掲載されていた「The photo is for illustrative purposes only.」を訳してみましょう。

原文 DeepL翻訳 Google翻訳 みんなの自動翻訳
The photo is for illustrative purposes only. 写真はイメージです。 写真は説明のみを目的としています。 写真は説明のためのものです。

DeepL翻訳は出力が変化し慣例に則した表現になりました。Google翻訳とみんなの自動翻訳は最初の訳文と全く同じでした。

英文が一般的な表現であれば、DeepL翻訳では「写真はイメージです。」を出力できるようです。

DeepL翻訳で別の訳を探す方法

DeepL翻訳では出力した訳文を画面上で修正できます。たとえば、「Photo is for illustration only.」がしっくりしないと感じる場合には、文中の単語をクリックすると修正候補が表示されるのです。

以下のように、「illustration」をクリックして表示される候補からProZ.comで見つけた「illustrative」を選択します。

すると、以下のように「purposes」という単語も追加されまして「Photo is for illustrative purposes only.」となりました。

別の修正方法です。今度は「only」をクリックして先頭にある「purposes」をクリックしてみます。

すると、onlyの前に「purposes」の単語が追加されて「Photo is for illustration purposes only.」となりました。

翻訳エンジン別の出力の比較(英日翻訳)その3

DeepL翻訳の出力の下線部を修正した「Photo is for illustrative purposes only.」を和訳してみます。

原文 DeepL翻訳 Google翻訳 みんなの自動翻訳
Photo is for illustrative purposes only. 写真はイメージです。 写真は説明のみを目的としています。 写真は説明のためのものです。

DeepL翻訳は慣例に則した表現になりました。Google翻訳とみんなの自動翻訳は、今回も訳文が変化しませんでした。

翻訳エンジン別の出力の比較(英日翻訳)その4

今度は、DeepL翻訳の出力の下線部を修正した訳文「Photo is for illustration purposes only.」を和訳してみます。

以下のような結果となりました。修正前の「Photo is for illustration only.」を和訳した出力結果と変わりませんでした。

原文 DeepL翻訳 Google翻訳 みんなの自動翻訳
Photo is for illustration purposes only. 写真はイラストのみです。 写真は説明のみを目的としています。 写真は説明のためのものです。

ただ、DeepL翻訳では1つ変化がありました。訳の候補に「写真はイメージです。」が表示されています。やはり、何らかの学習データとの関係性が見られます。

まとめ

慣例に則した表現が日英方向と英日方向でどう訳されるのか比較してみました。DeepL翻訳では慣例表現を意識した出力がありました。それに対して、Google翻訳とみんなの自動翻訳では慣例表現とは別の出力になりました。いずれの翻訳エンジンでも字面を訳している印象があります。そのため、日英翻訳では明らかな誤訳となりました。

英日翻訳の実験では、DeepL翻訳は原文の変化に対する訳文の変化が大きい結果となりました。Google翻訳もみんなの自動翻訳も、今回のような原文の修正では訳文が変わりませんでした。1例にはすぎませんが、これも翻訳エンジンの訳出傾向の違いを示していると思います。

DeepL翻訳

原文 訳文
The photo is for illustrative purposes only. 写真はイメージです。
Photo is for illustrative purposes only.
Photo is for illustration purposes only. 写真はイラストのみです。
Photo is for illustration only.

Google翻訳とみんなの自動翻訳

原文 Google翻訳 みんなの自動翻訳
The photo is for illustrative purposes only. 写真は説明のみを目的としています。 写真は説明のためのものです。
Photo is for illustrative purposes only.
Photo is for illustration purposes only.
Photo is for illustration only.

結局は「何をどう使うか、使わないのか」

DeepL翻訳が字面だけではなく慣例に則した表現も考慮して訳しているのが興味深いと思いました。でも、この記事で「DeepL翻訳が他の翻訳エンジンよりもすぐれている」という結論にはなりません。このような場合があるということを1つの例で示しただけです。

冒頭でも述べた通り、DeepL翻訳では学習データやアルゴリズムに影響されてそれらしい訳文を出力する場合もあると思います。DeepL翻訳に限らず機械翻訳の誤訳(=勝手な解釈)を適切に修正する必要があります。

分野、翻訳言語方向、原文の書き方により出力される訳文の精度が変わります。また同じ文書内でも段落や文により機械翻訳との相性があるので一概に評価しづらいです。つまり、機械翻訳の出力の評価には注意が必要です。目的に応じた使い分けが必要だと思っています。翻訳の用途によっては機械翻訳を使わないほうがよい場合があることは言うまでもありません。

(参考:ニューラル機械翻訳利用の判断基準

翻訳者のためのニューラル機械翻訳支援ツール「GreenT」で翻訳エンジンを使う場合には、機械翻訳の不完全な出力に対してどのような操作を自動化したいのか念頭に置くとよいと思います。原文を少し修正すれば出力が改善されるのであればプリエディット機能を使い、訳文を少し修正すれば使いやすい訳文になるのであればポストエディット機能を使います。

GreenTには様々な自動修正機能が用意されています。機械翻訳もその支援ツールも目的に応じた使い分けをするといいと思います。

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